研究内容の紹介


UDP-グルクロン酸転移酵素 (UDP-glucuronosyltransferase: UGT) は、UDP-グルクロン酸分子より水溶性原子団であるグルクロン酸を多種類の有機化合物に転移する反応を触媒する一群の酵素の総称である。 UGTにはアミノ酸配列の似た様々な分子種があり、UGT1とUGT2の二つのファミリーに分類されている。なお、UGT2はさらにUGT2AとUGT2Bの二つのサブファミリーに分類される。

下に示す反応式では、外来性化学物質の例として4-ニトロフェノール、生体物質の例として甲状腺ホルモンのグルクロン酸抱合反応を挙げている。なお、反転によりβ-グルクロニドが生成することに注意されたい。また、甲状腺ホルモンのような生理活性物質でも過剰に蓄積すると生体の恒常性を乱す場合があり、合成量の調節だけではなく体外へ排泄することで体内量を一定に維持する必要がある。

epithelia

UDP-グルクロン酸の糖の部分には極性基(-OH、-COOH)があり水溶性が高いが、例に挙げた4-ニトロフェノールと甲状腺ホルモンの水溶性は構造式から分かる通り低い。水溶性の低い親化合物の官能基にグルクロン酸が抱合されることで、より水溶性の高い抱合体が生成する。

一般に基質特異性と言えば、教科書にある通り一つの酵素に一つの基質であるが、UGTは糖供与体であるUDP-グルクロン酸に対しては特異性が高いが、抱合基質に他しては一見矛盾したような用語の使用法であるが幅広い特異性をもっている。

研究テーマ
我々はUGT1について酵素分子の数や活性の制御機構を調べており、ラットUGT1遺伝子の構造と変異遺伝子の解析や、多環式芳香族炭化水素による発現誘導などの研究で先駆けとなる成果をあげており、現在でも次の二つの局面から研究を進めている。

(1) 遺伝子構造と発現調節からみた酵素分子の数そのものの制御機構
(2) 細胞内局在や分解などからみた酵素分子の数や活性の制御機構

  • ABCトランスポーター

    生体膜を介して物質を出し入れするタンパク質をトランスポーター(輸送体)という。ABCトランスポーターのABCは、ATP-binding cassette(ATP-結合カセット)の頭文字から来ている。ヒトゲノムにおいて、49種の遺伝子が見つかっているが、タンパク質として実際に機能するものは48種類。(※これによってABC48とも言われる・・ウソです。)
  • Walkerモチーフ

    ATP加水分解活性を持つ多くのタンパク質で見出されるコンセンサス配列で、ATPの結合と加水分解に関与する構造を形成する。Walker AモチーフはATPのリン酸基結合部位で、GXXXXGKT/Sがコンセンサスとして見出される。Walker Bモチーフは、Mg2+を介してヌクレオチドに結合し、ΦΦΦΦDE(Φ:疎水性アミノ酸)がコンセンサス配列として見出される。
  • 腸肝循環

    肝臓から胆管に排出されたグルクロン酸抱合体は、腸管を移動する間に腸内細菌がもつβ-グルクロニダーゼの作用で加水分解されて元の化合物(アグリコン)に変わり再び吸収されることがあり、これを腸肝循環という。
  • Signatureモチーフ

    Cモチーフとも呼ばれる、ABCトランスポーターに特徴的な配列。真核生物と原核生物を問わず、一部の例外を除いてLSGGQの配列が保存されている。
  • 局在化シグナル

    細胞の中に存在するタンパク質は、一部の例外を除いて特定の細胞小器官(オルガネラ)に限定的に存在している。これをタンパク質の局在化といい、局在化を決定する情報が書き込まれているアミノ酸配列を局在化シグナルという。標的化シグナルも似たようなニュアンスで用いられるが、新たに合成されたタンパク質が局在場所への輸送途上に仕分けられるための配列という意味合いが強い。
  • 抱合反応

    ある化合物がもつ原子団を、ほかの化合物の官能基に転移する反応。グルタチオン抱合、グルクロン酸抱合、硫酸抱合、アミノ酸抱合などがある。リン酸基や水酸基の転移反応などと区別して、生体異物や生体内物質の官能基に生体成分を結合させる転移反応を指す。多くの場合、抱合反応を受けることによって尿中や胆汁中に排泄されるが、一部では活性化されて毒性の原因となる場合もある。