研究内容の紹介


ここに挙げた遺伝子マップは、私たちの研究グループがクローニングしたラットのUGT1遺伝子を示している。クローン番号に付いたλとCOSはスクリーニングに使用した遺伝子ライブラリーの種類を表しており、それぞれラムダファージライブラリーとコスミドライブラリーに由来している。このプロジェクトでは3種類のライブラリーを使って遺伝子をクローニングしている。

数十個の重複クローンを解析してマップを作成しており、タテ線は単離された遺伝子クローンの制限酵素Eco RIによる切断点を示している。それぞれの遺伝子クローンをEco RIで切断して生じたDNA断片からサブクローンを作成し、サブクローンをさらに別の制限酵素(Bam HIやHind IIIなど)で短くしたDNA断片を作成して塩基配列を解析した。(注:ψは機能しない偽遺伝子を表している。)

gene

塩基配列を解析した結果、UGT1遺伝子がそれぞれの分子種に対応する第一エクソンが並ぶクラスター領域と、すべての分子種で共通した第二エクソンから第五エクソンを含む共通領域からなる遺伝子複合体を形成していることが分かった。クラスター領域にある第一エクソンは、それぞれの分子種の基質特異性を決定しており、10,000から15,000塩基の間隔をおいて並んでいる。第二から第五の共通エクソンは、UDP-グルクロン酸への結合ドメインを決定している。

この遺伝子構造は抗体産生遺伝子の構造に類似しており、基質特異性を決定する第一エクソンが抗体遺伝子での可変領域に相当し、UDP-グルクロン酸を認識する共通エクソンはすべての分子種で共有された定常領域に相当する。

gene

UGT1遺伝子座において、それぞれの分子種に固有の発現パターンを制御するプロモーターがそれぞれの第一エクソンの上流にあり、どれか1つのプロモーターを選択して使い分けることにより、選ばれたプロモーターの下流にある領域を含む長い一次転写産物が生成する。

例えばエクソン1A7より転写が始まった場合だと、それより下流のすべてのエクソンを含んだ長い転写産物が形成されることになる。一方、エクソン1A1より転写された場合では、エクソン1A7より転写されたものよりは短い転写産物が形成される。

一次転写産物が核から細胞質に輸送されてスプライシングを受け、転写産物の先頭にある第一エクソンと共通エクソンが組み合わされて成熟型mRNAに変換され、それぞれの分子種に特有のアミノ末端(第一エクソンに由来する)とすべての分子種で共通のカルボキシ末端(第二~第五エクソンに由来する)をもつタンパク質に翻訳されることになる。このような段階を経て基質特異性の異なる複数の分子種を生成することになる。

例えばエクソン1A7より始まった転写産物の場合、エクソン1A7と共通エクソン(II、III、IV、およびV)が組み合わさってUGT1A7 mRNAが形成され、翻訳されたタンパク質がUGT1A7である。

  • ABCトランスポーター

    生体膜を介して物質を出し入れするタンパク質をトランスポーター(輸送体)という。ABCトランスポーターのABCは、ATP-binding cassette(ATP-結合カセット)の頭文字から来ている。ヒトゲノムにおいて、49種の遺伝子が見つかっているが、タンパク質として実際に機能するものは48種類。(※これによってABC48とも言われる・・ウソです。)
  • Walkerモチーフ

    ATP加水分解活性を持つ多くのタンパク質で見出されるコンセンサス配列で、ATPの結合と加水分解に関与する構造を形成する。Walker AモチーフはATPのリン酸基結合部位で、GXXXXGKT/Sがコンセンサスとして見出される。Walker Bモチーフは、Mg2+を介してヌクレオチドに結合し、ΦΦΦΦDE(Φ:疎水性アミノ酸)がコンセンサス配列として見出される。
  • 腸肝循環

    肝臓から胆管に排出されたグルクロン酸抱合体は、腸管を移動する間に腸内細菌がもつβ-グルクロニダーゼの作用で加水分解されて元の化合物(アグリコン)に変わり再び吸収されることがあり、これを腸肝循環という。
  • Signatureモチーフ

    Cモチーフとも呼ばれる、ABCトランスポーターに特徴的な配列。真核生物と原核生物を問わず、一部の例外を除いてLSGGQの配列が保存されている。
  • 局在化シグナル

    細胞の中に存在するタンパク質は、一部の例外を除いて特定の細胞小器官(オルガネラ)に限定的に存在している。これをタンパク質の局在化といい、局在化を決定する情報が書き込まれているアミノ酸配列を局在化シグナルという。標的化シグナルも似たようなニュアンスで用いられるが、新たに合成されたタンパク質が局在場所への輸送途上に仕分けられるための配列という意味合いが強い。
  • 抱合反応

    ある化合物がもつ原子団を、ほかの化合物の官能基に転移する反応。グルタチオン抱合、グルクロン酸抱合、硫酸抱合、アミノ酸抱合などがある。リン酸基や水酸基の転移反応などと区別して、生体異物や生体内物質の官能基に生体成分を結合させる転移反応を指す。多くの場合、抱合反応を受けることによって尿中や胆汁中に排泄されるが、一部では活性化されて毒性の原因となる場合もある。