研究内容の紹介


UGT1遺伝子の発現調節
それぞれの分子種に特異的な抗体を使ってそれぞれのタンパク質量の変化を解析し、またmRNA量の変動を解析することにより各々のUGT1分子種が薬物応答性や組織特異性などの異なる発現調節を受けていることを示した。とりわけUGT1A6とUGT1A7はラットにメチルコラントレンを投与すると発現が誘導される 。

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【参考文献】J. Biochem. 117, 392-399 (1995), Arch. Biochem. Biophys. 324, 267-272 (1995)

UGT1遺伝子の発達段階特異的な発現調節
それぞれの分子種について胎児ラットから成熟ラットまでの様々な発達段階での発現の経時変化を調べた。RT-PCR法によってmRNA量の変動を、特異抗体を使ってタンパク質量の変化を、またビリルビンと4-ニトロフェノールに対するグルクロン酸抱合活性の変動を解析した。

UGT1A6は胎児ラット肝臓で唯一のUGT1分子種として発現するが、出生後は速やかに発現が減少することを見出した。また、UGT1A6と入れ替わるようにしてUGT1A1が出生直後に誘導され、mRNA量の増加より遅れてUGT1A1タンパク質が増加してビリルビンのグルクロン酸抱合活性が上昇することも分かった。UGT1A1の発現の経時変化、とりわけUGT1A1タンパク質量が不足する時期が新生児黄疸の発現に対応していることがこの結果より分かる。

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【参考文献】Biochem. Biophys. Res. Commun. 377, 815-819 (2008)

UGT1遺伝子の発現制御機構の解析

UGT1A6
AhR/ARNT複合体がUGT1A6プロモーターに存在する薬物応答配列 (XRE) に結合するとUGT1A6の発現が誘導されることを示した。

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【参考文献】J. Biol. Chem. 271, 3952-3958 (1996)

UGT1A2
UGT1A2は肝臓ではほとんど発現しないが肝細胞を初代培養系に移すと発現が誘導される。UGT1A2のプロモーター領域に肝細胞での発現誘導に関わる新規エンハンサー配列を同定した。この配列に結合するタンパク質を精製して解析した結果、この配列にNFI-A/NFI-C複合体が結合していると発現が低く抑えられているが、初代培養肝細胞ではNFI-Cが消失してNFI-Aにより発現が促進されることを見出した。UGT1A2を発現する肝臓以外の臓器での発現制御機構を解明する手がかりとなるものと考えている。

【参考文献】Arch. Biochem. Biophys. 378, 384-392 (2000), J. Biochem. 138, 313-325 (2005)

UGT1A7
チロキシンを結合したTRα/RXRα複合体がUGT1A7プロモーターに存在する甲状腺ホルモン応答配列 (ここで見出された応答配列はDR-5) に結合するとUGT1A7の発現が誘導される 。UGT1A7はチロキシンにグルクロン酸を抱合して不活性化する作用があり、細胞内でUGT1A7の発現量と活性型リガンドの含量がTRα/RXRαの作用を通して制御される仕組みが存在する可能性を示した。また、UGT1A7はTCDDなどの環境汚染物質によって発現が誘導されることから、このような化学物質が引き起こす成長障害を伴う甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)の原因の一端を明らかにした。

【参考文献】Endocrinology 148, 6124-6133 (2007)

  • ABCトランスポーター

    生体膜を介して物質を出し入れするタンパク質をトランスポーター(輸送体)という。ABCトランスポーターのABCは、ATP-binding cassette(ATP-結合カセット)の頭文字から来ている。ヒトゲノムにおいて、49種の遺伝子が見つかっているが、タンパク質として実際に機能するものは48種類。(※これによってABC48とも言われる・・ウソです。)
  • Walkerモチーフ

    ATP加水分解活性を持つ多くのタンパク質で見出されるコンセンサス配列で、ATPの結合と加水分解に関与する構造を形成する。Walker AモチーフはATPのリン酸基結合部位で、GXXXXGKT/Sがコンセンサスとして見出される。Walker Bモチーフは、Mg2+を介してヌクレオチドに結合し、ΦΦΦΦDE(Φ:疎水性アミノ酸)がコンセンサス配列として見出される。
  • 腸肝循環

    肝臓から胆管に排出されたグルクロン酸抱合体は、腸管を移動する間に腸内細菌がもつβ-グルクロニダーゼの作用で加水分解されて元の化合物(アグリコン)に変わり再び吸収されることがあり、これを腸肝循環という。
  • Signatureモチーフ

    Cモチーフとも呼ばれる、ABCトランスポーターに特徴的な配列。真核生物と原核生物を問わず、一部の例外を除いてLSGGQの配列が保存されている。
  • 局在化シグナル

    細胞の中に存在するタンパク質は、一部の例外を除いて特定の細胞小器官(オルガネラ)に限定的に存在している。これをタンパク質の局在化といい、局在化を決定する情報が書き込まれているアミノ酸配列を局在化シグナルという。標的化シグナルも似たようなニュアンスで用いられるが、新たに合成されたタンパク質が局在場所への輸送途上に仕分けられるための配列という意味合いが強い。
  • 抱合反応

    ある化合物がもつ原子団を、ほかの化合物の官能基に転移する反応。グルタチオン抱合、グルクロン酸抱合、硫酸抱合、アミノ酸抱合などがある。リン酸基や水酸基の転移反応などと区別して、生体異物や生体内物質の官能基に生体成分を結合させる転移反応を指す。多くの場合、抱合反応を受けることによって尿中や胆汁中に排泄されるが、一部では活性化されて毒性の原因となる場合もある。