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カテゴリー「気になる研究を紹介」の検索結果は以下のとおりです。

類似タンパク質が示す相互作用の特異性を見分ける網羅的手法

A systematic proximity ligation approach to studying protein-substrate specificity identifies the substrate spectrum of the Ssh1 translocon

Nir Cohen, Naama Aviram, and Maya Schuldiner

EMBO Journal 2023 Vol. 42 e113385

(https://doi.org/10.15252/embj.2022113385)

 

タンパク質間の相互作用を見出す手法の一つにProximity labeling、近接依存性標識法と呼ばれる手法がある。

相互作用を調べたいタンパク質Aにビオチン転移酵素やアスコルビン酸パーオキシダーゼを付加した融合タンパク質を細胞内で発現させておくことで、融合タンパク質と相互作用したタンパク質Bに酵素活性の作用でビオチンが転移されることがこの手法のキモとなる。

融合した酵素活性の違いで、BioID法とAPEX法と呼ばれる近接依存性標識法が開発されている。

 

これらの手法では、相互作用相手のタンパク質が標識される効率が発現量や相互作用の長さに依存しており、稀なタンパク質や一過的な相互作用を示すタンパク質を検出しにくいという問題点がる。

 

すなわち、関係のないタンパク質が標識されるバックグラウンドが無視できないことに加え、発現量が多くて強固な相互作用を示すタンパク質ほど強く標識される傾向があり、逆に発現量が少なくて相互作用が一過的なタンパク質が標識されないこともある。

 

そこでこの論文では、発現量や相互作用の強さに影響されない検出法を酵母で確立し、その手法の有用性を検証したことを報告している。

まずはBirA*融合タンパク質の分解をオーキシン制御下で行わせる系を確立し、あるタイミングで一斉にビオチン転移が起きるようにして標識強度のブレを抑制することをしている。

また、通常では0.512 nMという低濃度のビオチン存在下で酵母を培養しておき、標識したいタイミングでビオチン濃度を30 nMに急上昇させることをしている。

 

筆者たちはここで確立した手法をCel-lctivと命名してselectiveと読ませようとしており、実際にSec61とSsh1でこの手法の有油性を検証することをやっている。

肝細胞の極性とRab35の関係

Anisotropic expansion of hepatocyte lumina enforced by apical bulkheads

Lenka Belicova, Urska Repnik, Julien Delpierre, Elzbieta Gralinska, Sarah Seifert, José Ignacio Valenzuela, Hernán Andrés Morales-Navarrete, Christian Franke, Helin Räägel, Evgeniya Shcherbinina, Tatiana Prikazchikova, Victor Koteliansky, Martin Vingron, Yannis L. Kalaidzidis, Timofei Zatsepin, and Marino Zerial

J. Cell Biol. 2021 Vol. 220 No. 10 e202103003

(https://doi.org/10.1083/jcb.202103003)

 

管腔形成の方向には、isotropicすなわち等方向に広がるタイプと、anisotropicすなわち異方的に伸長するタイプがある。前者の例には腺房や肺胞があって、嚢胞状の構造をとる上皮組織を形成する。後者はいわゆる管状構造の上皮組織を形成するタイプで、気管、腸管、尿細管、肝などが相当する。

 

一般的な上皮細胞は1つのapical-basal axisに形成されるvectorial polarityを示す。肝細胞は他と較べて特殊で、複数のapical-basal axisが形成されてbiaxial polarityを示す。

 

内胚葉細胞から派生した肝芽細胞が肝前駆細胞と胆管上皮前駆細胞に分化し、それぞれが肝細胞と胆管上皮細胞へと成熟する。同じ細胞から分化するのに、肝細胞がbiaxial polarityで胆管上皮細胞がvectorial polarityを示す。その違いが何なのかを説明しようとするのがこの論文。

 

まずマウスの胎児より肝臓を取り出し、肝臓を消化したのちにDlk1を発現する細胞を集めておく(Dlk1は肝芽細胞のマーカータンパク質)。細胞外基質を用いて培養した肝芽細胞は極性を発現して成熟肝細胞へと分化し、細胞間に微小胆管を形成する。このようにして肝細胞による管腔形成を再現する実験系を確立した。

 

形成途上の微小胆管を詳細に観察した結果、アクチンで染色される縞模様の構造が見出され、これをapical bulkheadとした。apical bulkheadは、融合や分岐を繰り返して微小胆管のネットワークを形成した。apical bulkheadは竹の節のように見えるが、節どうしは個々に隔てられた空間ではなく連続していた。

 

次に、管腔形成への関与が知られている25種のタンパク質の肝芽細胞での発現をRNA干渉で抑制し、apical bulkheadの形態を変えるものをスクリーニングした。その結果、Rab35のノックダウンによって肝細胞の極性がbiaxialからvectorialにシフトし、しかもapical bulkheadが消失して肝細胞が嚢胞を形成するすることが見出された。この点が非常に重要で、Rab35のノックダウンによって管腔形成がanisotropicからisotropicにシフトすることを示している。マウス胎児の肝臓でRab35の発現をノックダウンしてみると、apical bulkheadが消失し肝細胞が嚢胞を形成することも分かった。

新しい技法で見えてきた小胞体-ゴルジ体間の微細構造

ER-to-Golgi protein delivery through an interwoven, tubular network extending from ER

Aubrey V. Weigel, Chi-Lun Chang, Gleb Shtengel, C. Shan Xu, David P. Hoffman, Melanie Freeman, Nirmala Iyer, Jesse Aaron, Satya Khuon, John Bogovic, Wei Qiu, Harald F. Hess,
and Jennifer Lippincott-Schwartz

Cell 184, 2412–2429 (2021)

 

言わずと知れた大御所、Lippincott-Schwartzの研究チームの論文。

 

ER–Golgi間の輸送に関して、COPIIとCOPIの役割について細胞生物学分野で受け入れられているモデルがあります。

輸送に関与する分子のそれぞれは分かっているのですが、それらがどのように組織化されてカーゴを輸送するのかといった全体像が不明です。

教科書では当たり前のように書かれていることってありますが、それって本当なのとかそこまでしか分かってないのという疑問に答えを出そうというものです。

 

観察手法はcryo-SIMとFIB-SEM、タンパク質を変性させない条件の超低温でサンプルを生のまま固定して超解像で蛍光観察し、その後に電子顕微鏡で微細構造を観察します。電顕観察では収束イオンビーム (FIB)によってサンプルを少しずつ掘削し、得られた掘削面の構造を走査型電子顕微鏡で取得し、連続した3D画像にします。最後に立体化された蛍光観察画像と重ね合わせるという手法です。

 

この手法では生きたままの細胞を観察できませんので、RUSH法によって時間を決めてカーゴを輸送させ、cryo-SIM/FIB-SEMで観察してます。

 

この新しい観察手法を駆使して、分泌経路の初期段階の分子解剖を行って得られた結果を要約すると、

(1) ERESは複雑に絡まった形態のネットワークを形成し、ERとの間でカーゴを交換する。フツーの蛍光観察では小胞体に点在するドット状のシグナルでしか見えないのですが、データの真偽は脇にしておいて思いのほか複雑な形態で感動です。

(2) COPIIによりカーゴがERESに集積し、COPIによってカーゴがERESからGolgiに運搬される。COPIIはカーゴをERESに搬出する初期段階に関わることになります。また、COPIはGolgiからERへの輸送と教わるのですが、この教科書的な記述を改める日が来るのかもしれません。

(3) カーゴの運搬体は数珠玉が連なったような膜の構造で、微小管に沿って移行する。この微細構造も感動ものです。

 

 

液–液相分離が駆動する葉緑体チラコイドタンパク質の局在化制御

Liquid-Liquid Phase Transition Drives Intrachloroplast Cargo Sorting

Min Ouyang, Xiaoyi Li, Jing Zhang, Peiqiang Feng, Hua Pu, Lingxi Kong, Zechen Bai, Liwei Rong, Xiumei Xu, Wei Chi, Qiang Wang, Fan Chen, Congming Lu, Jianren Shen, and Lixin Zhang

Cell 180, 1144–1159 (2020)

 

葉緑体の内部は三重の膜で仕切られており、外包膜、膜間空間、内包膜、ストロマ、チラコイド膜、そしてチラコイド内腔の6つの区画に分けられます。

葉緑体に局在化するおよそ3,000種のタンパク質のうち一部が葉緑体ゲノムに由来しますが、大多数は核ゲノムに由来します。

後者の場合、タンパク質は細胞質で生合成されてから葉緑体の然るべき場所に局在化する必要があります。

したがって、各々のタンパク質の局在化を制御している機構を明らかにする研究が古くから成されてます。

 

この論文で問題とするのはチラコイドのタンパク質のケースでして、多くのタンパク質で混み合ったストロマのなかをチラコイドに効率よく運搬するしくみを探ることを目指してます。

 

詳細は省き要約すると、

(1) 葉緑体のストロマにおいてSTT1と STT2のヘテロオリゴマーがTat経路のカーゴをチラコイドに選別する。STT1とSTT2は、もともとEMB506とANKRと呼ばれていたタンパク質で、カーゴと結合するものとして酵母ツーハイブリッドで見出されてます。

(2) カーゴのアミノ酸配列に含まれるシグ ナルがSTT複合体の相分離を促進する。Tat経路のカーゴがもつ局在化シグナルは、数個の正電荷アミノ酸の後方に10数個の疎水性アミノ酸が続く構造。STT複合体は標的化シグナル存在下でオリゴマー化して液–液相分離を起こします。

(3) STT複合体の相分離がカーゴのチラコイドへの選別に必要。オリゴマー化が抑制される変異体ではチラコイド膜への標的化が抑制されます。

(4) Hcf106が相分離の状態を解除することで、カーゴのチラコイド内腔への移行が促進される。Hcf106とTatCはカーゴを受容する複合体を構成してます。カーゴは、相分離状態にあるSTT1/STT2オリゴマーに取り込まれた状態でチラコイド膜へ標的化され、受容体に含まれるHcf106が相分離状態を解除することでカーゴが放出され膜を通過していくと言うシナリオを提唱してます。

小胞体で複合体を形成できなかったサブユニットのAsi複合体による分解

Quality Control of Protein Complex Assembly by a Transmembrane Rocognition Factor

Nivedita Natarajan, Ombretta Foresti,  Kim Wendrich, Alexander Stein, and Pedro Carvalho

Molecular Cell 77, 108–119 (2020

 

核膜内膜に局在化するタンパク質は、小胞体膜に挿入されたあとで膜上を拡散して核膜内膜に到達し、そこでクロマチンやラミンとの結合を介して核膜内膜に留まります。

一方、小胞体局在の膜タンパク質の一部は膜上を拡散して間違って核膜内膜に侵入するようで、どのような機構で核膜内膜のプロテオームを維持しているのか興味深いところ。

この論文では、核膜内膜で行われるタンパク質品質管理にスポットを当て、研究の取っ掛かりとして酵母がもっているAsi複合体に注目します。

 

Asi複合体のうち、Asi1とAsi3はRINGドメインをもつユビキチンリガーゼ(E3)ですが、Asi2の機能は不明です。

また、E2はUbc4とUbc7で、Cdc48/Npl4/Ufd1複合体がユビキチン化されたタンパク質を膜から引き抜きプロテアソームに渡すことが知られてます。

 

そこで、基質となるタンパク質の性状、基質タンパク質と結合するサブユニット、そのサブユニットが認識する基質の配列などを様々なテクニクを駆使して調べ上げ、生理的な意義づけにまで発展させてます。

結論は以下の通り。

(1) 複合体として会合していない単独状態のサブユニットの品質管理が核膜内膜で行われている。

(2) Asi複合体が未会合のサブユニットを分解する。

(3) Asi2が基質認識を担っていて、基質タンパク質の膜貫通領域を認識している。

(4) 過剰に生成したサブユニットを分解することで個々のサブユニット の量のバランスを調節する。

(5) 動物細胞でこのシステムが存在するかどうかは不明。

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