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私の偏愛するSFたち(その3)

パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」

 

石油が枯渇してしまった近未来のタイが舞台。

世界的規模でエネルギー構造が激変した結果、日常の主な動力源を遺伝子改変生物に頼るほか、ゼンマイを巻いて貯めたエネルギーを利用してます。

これらの手段で得たエネルギーから電気も作ってますが、安定供給は出来てません。

また、害毒に冒された危険な食物が人々の命を脅かし、安全で安定的な食物の供給は国際企業に掌握されてます。

 

奇病や遺伝子改変体の蔓延、人工生命、自然発生した奇妙な植物、温度上昇と海面上昇がもたらす不快な気候、人種の弾圧と虐殺など、複雑に絡み合ったキーワードが盛り込まれて物語が進行します。

物語には特定の主人公がいない群像劇の形式ですが、タイトルにある「ねじまき少女」エミコが印象的です。

エミコは日本で生まれた遺伝子操作による人工生命体で、嬲られるという役割をもつセクサロイドとして生を受けてます。

その一方で独立した個としての希求も併せ持ち、彼女の心の中で芽生える2つの相反する間でのせめぎ合いが切ないです。

 

石油文明が崩壊した後の世界での物語がお好きな方でしたら、同じ著者による「第六ポンプ」や「シップブレイカー」もどうでしょうか。

前者は短編集で、化学物質の摂取過剰で出生率の低下と痴呆化が進行しつつあるニューヨークが舞台の表題作や、「ねじまき少女」と似た設定の「カロリーマン」などが印象的です。

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